天文学者を志した小学生時代と現実
なぜ今こんなことを書くのかとも思うが、正月に時間もあるのでちょっと書いてみた。
私が小学2年の時、「宇宙」の図鑑と天体望遠鏡を親に買ってもらったことがきっかけで、星を見るようになった。太陽、月、木星、土星、金星、水星‥などなどである。
中学生の時、宇宙を扱う月刊誌を読むようになり、毎月、ひとりでプラネタリウムを観に行くようになった。親に頼らず電車に乗って出かけられるようになったきっかけは「宇宙」だった。加えて、星座の位置などがすぐに表示できるという事を聞いたため、当時はまだ目新しかったパソコンを始めた。
後年、情報処理技術者試験に合格し、仕事として10年ほどIT関連の教員をしていたが、このきっかけになったのも「宇宙」だった。
高校生になって大学受験を意識し始めた時、初めて「現実」と衝突した。「天文学者」になるには途方もない学力が必要だということ‥宇宙を仕事として行くのは大変な狭き門であるということ‥。
学者なんて身分不相応というより努力不足
色々調べて行くと「天文学」でなくても宇宙を学べる学問があることを知った。物理学だった。なので大学受験は「宇宙」「物理」「IT」を主軸として学部を選んだ。「宇宙」は夢の夢を追うため。「物理」は夢と現実の両方を見据えて。「IT」は現実的な将来の就職を考えての事であった。
結果的には「物理」の学部に進学した。4年次には「宇宙線」の研究室に入った。今思えば努力不足も甚だしかったが、若気の至りで大学院に進み、物理学者を目指している気分になっていた。ただ、力不足は明白であった。大学院は修士課程で終え、25歳で就職した。
就職後も4、5年程だっただろうか、休暇を利用して研究室に通っていた。観測機材のメンテナンスや観測したデータをパソコンで分析するようなことを続けていた。このころ、自分は研究すること・物事を調べて新しい事を知る‥といったが好きなのだということを悟った。
いつしか始めた現実的な人生 現実的な大人
就職は宇宙とは関係ない仕事だった。時が経ち仕事も忙しくなり、結婚して子供が産まれ、親を介護・見守りする必要も出て来た。いつしか宇宙・研究からは離れた生活となり、自分の見る「夢」も変わって行った。現実を即した上で、その延長線上に立った現実的な夢を見るようになっていた。
仕事・家庭の「必要な仕事」に明け暮れて十数年が経った40代後半のある日だった。子供たちも成長して手が掛からなくなって来た。会社の仕事は相変わらず忙しかったが、20年も仕事をしていれば力の入れ加減もわかって来る。次第に時間と気持ちの余裕を感じるようになった。
古本屋で拾った夢 100円で売っていた本から
母の病院見舞いの帰りにふと立ち寄った古本屋で「物理」の本が100円で売られていた。手に取って読んでみると懐かしさと共におもしろさを感じて止まなかった。おもしろくておもしろくて‥とってもおもしろくて‥100円なら無駄になってもいい‥結局その物理の本を買って読んでしまった。
古本と言っても一般的な教科書として使われるような本である。多くの数式や例題・問題なども盛り込まれている。次第に目で追うだけでなく数式を紙に書いて理論を追うようになった。難しい理論や忘れた公式はインターネットで調べる事ができた。ネット上では動画の解説もあり、自身で質問すればネット上で回答してくれる人もいる。。20数年前より独力で学習する環境は格段に良くなっていた。
あくまでも「仕事の合間に」ではあるが、1年程かけて上の古本(正確には物理学の「力学」というテーマの本)を完読してしまった。仕事の合間に‥他の用があればやらない‥時間的にはそんなダラダラした「趣味の領域」ではあるが、決して妥協せず、完全理解を目指した学習‥インターネットの存在がそんな独学を可能にした。
40代後半から 結構出て来た自由な時間
昨今の社会状況も後を押した。自分の時間が増えたのである。会社は定時帰宅を推奨し、家では子供たちも手が掛からない‥むしろ「お父さん関わらないで‥」といった感じである。そう‥時間があるのだ。
どうせ長く続かないだろう‥とも思っていたのだが‥継続中である。物理学では「力学」の次に学習すべき「電磁気学Ⅰ」の本をネットで購入した。ワクワクしながら少しずつ読み切った。そして、先日「電磁気学Ⅱ」の本を読み始めた。。細く長く物理学の本を読み始めてもう3年になる。物理学は学習を進めれば様々な分野に到達できるが、その中に「宇宙」の分野も含まれる。
もちろん、そんな高度なところまで学習して行けるかどうかなど分からない。でも机上の学習を続けることは「多くの時間をかければ不可能ではない」そして「その時間を確保できる見込みができた」のだ。
もはや夢など見ることはないだろう‥と思っていた私に、ふとしたところに夢が転がっていた。。そのきっかけは古本屋だった。
自己満足でもいい 本当にやりたかったこと
10代後半、20代の頃は、どうしても自分の夢に職業を重ねてしまう部分があった。それは社会を生きる人間として仕方のない事であった。私に限ったことではないかも知れない。。50代となった今、振り返れば必ずしも成功した会社員生活ではなかった。会社に嫌気が差し、独立開業を目論んだ時期もあったが、到底力不足‥というより覚悟不足だったという方が近い‥で実行せずに終わってしまった。
これは、あくまでも私個人の話ではあるが、私は本当に天文学者に、物理学者に、独立してお金持ちになりたかったのだろうか‥今落ち着いて考えると、そうではなかったのだと思える。
子供心に、将来、何かしらの「職業」に就かなくてはならない。ならば、やりたいことを職業に‥という思考だった。「学者」や「経営者」に心底なりたかったわけではない。
地位・名誉・お金・地域への貢献‥そういったものではなく、単に宇宙の事が知りたいだけ。宇宙がどうなっているのか知れればそれでいい。身勝手で安っぽい考えなのだろうが、嘘偽りのない率直な考えである。そして、今では週に3~4時間程度ではあるが、物理の学習を続けていることが私の生き甲斐のひとつであり夢でありモチベーション維持の土台となっている。
そのことに気付いた時、少し嬉しい気持ちになった。少し自分を好きになった。
あと20~30年。長く生きた分だけ宇宙の真理に近づける。。たまに息抜きで釣りに行く。50代以降の私の生活はこんな感じになるだろう。